大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和41年(ワ)796号 判決

原告

菊地淳

外三名

代理人

藤井哲三

青木永光

被告

株式会社京都橘屋

外四名

代理人

西本寛一

主文

原告等の訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実〈省略〉

理由

一、株主総会不存在確認の訴について。

原告等の本訴は、被告会社の下記(1)ないし(3)の各株主総会決議の存在しないことの確認を求めるものである。

(1)  昭和四〇年一〇月二九日付定時株主総会における八木隆治、八木信彦を取締役に、馬場良之を監査役に選任する決議

(2)  昭和四〇年一一月二五日付臨時株主総会における八木辰、仲田松次郎、中山孝夫を取締役に選任する決議

(3)  昭和四一年五月二六日付臨時株主総会における橋本義一を取締役に選任する決議

二、〈証拠〉によれば、京都地方裁判所は、原告等の申請にもとづき、昭和四二年四月一四日、被告会社取締役八木隆治、同八木辰、同八木信彦、同仲田松次郎、同中山孝夫、同橋本義一、同監査役馬場良之の各職務執行を停止し、白畠正雄に被告会社の代表取締役、佐藤義雄、中山秀夫の両名に同取締役、宮永基明に同監査役の職務を代行させる旨の仮処分判決を言渡し、右職務執行停止を受けた者は、同月二五日取締役、監査役を辞任し、右代表取締役職務代行者白畠正雄は、被告会社の少数株主から役員整備のための株主総会の招集を求められたので、商法第二七一条による裁判所の許可を得て、同年八月一五日、取締役三名および監査役一名を選任するための株主総会を招集し、同総会は、八木隆治、八木信彦、原告菊地淳を取締役に、馬場良之を監査役に選任する旨決議し、右被選任者はその就任を承諾し、同月二九日、右被選任者の就任登記がなされた。

三、(1)  株主総会決議(第一決議)により選任された取締役(監査役)が任期の満了又は辞任によつて退任し、後任の取締役(監査役)が選任された場合においても、右後任の取締役(監査役)選任決議(第二決議)をした株主総会が、第一決議により選任された取締役甲の招集にもとづくものであるときは、第一決議の不存在(無効)確認の訴につき確認の利益がある、と解するのが相当である。けだし、取締役(監査役)選任決議の不存在(無効)確認の訴は、対世的効力を有するこの訴を認める趣旨から考えて、現在、誰が取締役(監査役)の権利義務を有するかの確定に直接関係するときにかぎり、その訴の利益を肯定するのが相当であるところ、第一決議が不存在(無効)であれば、第一決議によつて選任された取締役甲の招集にもとづく第二決議も不存在(無効)となり、当該株式会社の取締役(監査役)は第一決議直前の状態になり、任期の満了又は辞任によつて退任した第一決議直前の取締役(監査役)は、商法第二五八条第一項(第二八〇条)により、取締役(監査役)の権利義務を有することになり、設例の場合の第一決議の不存在(無効)の確定は、現在、誰が取締役(監査役)の権利義務を有するかの確定に直接関係するからである。(最高裁判所昭和三八年八月八日第一小法廷判決、民集第一七巻第六号八二三頁は、「商法二五二条は、「総会ノ決議ノ内容ガ法令又ハ定款ニ違反スルコトヲ理由トシテ決議ノ無効ノ確認ヲ請求スル訴」について規定し、商法一〇九条の準用によりその無効確定判決に対世的効力を与えているが、株主総会決議がその成立要件を欠き不存在と評価される場合においても、本件のようにその決議の内容が商業登記簿に登記されている場合に、その効力のないことの対世的確定を求める訴の必要性は決議の内容の違法の場合と何ら異らず、同条においてとくにこれを除外する趣旨がうかがわれないから、本訴は商法二五二条に照し適法であるといわなければならない。」と判示する。)

(2)  株主総会決議(第一決議)により選任された取締役(監査役)が任期の満了又は辞任によつて退任し、後任の取締役(監査役)が選任された場合、右後任の取締役(監査役)選任決議(第二決議)をした株主総会が、仮処分により選任された代表取締役職務代行者の招集にもとづくものであるとき、第二決議の不存在(無効)等の特別の事情のないかぎり、第一決議の不存在(無効)確認の訴につき確認の利益がない、と解するのが相当である。けだし、取締役(監査役)の選任決議の不存在(無効)確認の訴は、対世的効力を有するこの訴を認める趣旨から考えて、現在、誰が取締役(監査役)の権利義務を有するかの確定に直接関係するときにかぎり、その訴の利益を肯定するのが相当であるところ、設例の場合の第一決議の不存在(無効)の確定は、過去において、誰が取締役(監査役)の権利義務を有したかの確定に関係するにすぎず、現在、誰が取締役(監査役)の権利義務を有するかの確定に直接関係しないからである。

四、したがつて、株主総会不存在確認の訴は、訴の利益を欠き、却下を免れない。

五、取締役解任の訴について。

二認定のとおり、被告八木辰、同仲田松次郎、同中山孝夫、同橋本義一は被告会社の取締役を辞任し、八木隆治、八木信彦、原告菊地淳が後任の取締役に就任した。

したがつて、取締役解任の訴も、訴の利益を欠き、却下を免れない。

六、よつて、原告等の訴を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。(小西勝 山本博文 寒竹剛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例